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デザインのちから!

動物図形を使ったマークのデザイン研究その7

動物図形を使ったマークのデザイン研究その1」で、動物図形を使ったマークの商標について、特許庁や裁判所の判断を種々観てきました。そこで今回は、これらの判断を参考に、動物図形を商標として選ぶ際の注意点等考えてみたいと思います。(特許庁・裁判所の判断はブログ筆者一部加工あり。)
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1.結合商標の類否判断
 「SHI-SA」と動物図形からなる本件商標について、「シーサー」と星の図形からなる先行登録商標(引用商標A)との類似が問題になりました。登録後になされた異議申立てで引用商標Aと類似とされたものの、その取消訴訟で、称呼は類似するが、外観が著しく異なるため総合的に観た場合は非類似となると判断されました。この際に判断基準として挙げられた判例が、氷山事件の他、結合商標に関する以下のような裁判例の文言です(リラ宝塚事件、SEIKO EYE事件、つつみのおひなっこや事件)。

「商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである。」

 但し、本件取消訴訟では、上記判断基準に当てはめれば、「「SHI-SA」部分」ないし「同文字列部分と動物図形部分を合わせた構成要素」が「出所識別標識として強く支配的な印象を与える」と裁判所が認定しているので、これは上記判断基準の前者に該当し、引用商標Aとの類似が認める結論になりそうなところです。本取消訴訟では、単に氷山事件の判決のみより導いた方がすっきりするような気もします。
 いずれにしても、称呼のみ共通にしても、外観上著しく異なれば非類似となる可能性はあるということです。商標を構成する図形要素や文字要素がバランスよく配置され、一つの固まりとして認識されるような統一感あるデザインを施すことは、他者商標との混同を生じない、強いブランドに育てる第一歩ともいえそうです。但し、図形要素と文字要素を自由に切り離しできるようにし、媒体や商品の種類に使用態様を変える手法も考えられますが、やはり全体の世界観は崩したくないところです。

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2.著名商標のフリーライドやパロディの問題
 本件は、著名商標に対するフリーライド又はパロディが問題となりました。上記引用商標A以外に、「動物図形を使ったマークのデザイン研究その3」で取り上げたように、プーマ社の「PUMA」の文字と動物図形からなる引用商標Cとの類似が問題になりました。異議申立ての取消決定に対する取消訴訟で「類似しない」とされましたが、差戻された異議申し立ての審理で、さらに、4条1項15号、19号に該当するとして取消され、その取消訴訟で最終的に15、19号にも該当しないとして登録が維持されました。あくまで、 「SHI-SA」と動物図形からなる本件商標の登録を取り消したい特許庁に対し、裁判所は、文字や図形の基本的構成態様が似ているとしましたが、中央の文字部分は、文字列や称呼が相違し、頭部の大きさ、首,前足・後足の関節・尻尾の飾りや巻き毛の模様の有無,尻尾の形状等において、異なる印象を与え、本件商標からは、文字部分とあいまってシーサーを表したことが看取できる点で、非類似と結論づけました。混同のおそれ(同項15号)もないとしました。

 なお、「パロディ」なる概念は商標法の定める法概念ではなく講学上のもので、あくまでも法概念である15号該当性の有無により判断すべきで、かつ、原告は引用商標C等のプーマ社の商標をパロディとする趣旨で本件商標を創作したものではないし、両商標とは生じる称呼及び観念が相違し、外観も必ずしも類似するとはいえないため、必ずしも同社商標をフリーライドするものとも希釈化するものともいうこともできない、としました。

ブログ筆者私見
 アイデア段階では、自然界や人工的な世界で、無数にモチーフが転がっていると言えます。既存の著作物や商標も参考になる場合があると思います。従って、商標の選択(創作)時点において、アイデアのレベルで、ヒントを得た場合でも、それが出願された場合に拒絶をすべきか否か、その類似か否かの明確な基準がないとも言えそうです。とはいえ、著名な商標のフリーライドやパロディを阻止したい希望は、その商標所有者の最も高い関心事でもありましょう。
 そこで、著名商標からアイデアを得た場合でも、新たに自社独自のブランドのコンセプトを考え、そのコンセプトを反映するよう、模様や文字・その他の要素を付加等されているかによって判断するのがよいように思います。
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左写真:http://www.okinawa365.com/article/390262280.htmlより引用
右写真:http://nantokougei.ti-da.net/e2811208.htmlより引用

 この点、 「動物図形を使ったマークのデザイン研究その4」で、より詳細に、パロディやフリーライドの問題を観ていきましたが、本件商標については、19号(不正の目的等要件)該当性について、本件商標を使用した商品を掲載したHP等で、「世界に向かって うちなーんちゅが跳び出せと願いをシーサーに込めてデザインしました」という想いともに、「ジャンピングシーサー」とのコンセプトが発信されていることや、販売ルートが相当限定されている等が加味され該当しないとされました。、裁判所は、パロディの趣旨で本件商標を創作した事実を認めるに足りる証拠は存しない等と認定しています。
 
 これに対し、「その4」では「KUmA」と熊図形からなる商標、「UUMA」と馬図形からなる商標と、著名な「PUMA」と動物図形からなる商標の関係について、前2者の商標の構成態様や使用態様から、商標法4条1項7号に該当するとされました。同号は公序良俗を害する商標を拒絶する規定です。
 裁判所は、「KUmA]について、需要者に「需要者に引用商標を連想,想起させ,引用商標に化体した信用,名声及び顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する不正な目的で採択・出願し登録を受け,原告は上記の事情を知りながら本件商標の登録を譲り受けたものと認めることができる、と判断しました。「UUMA」商標についても、その登録を認めると、PUMA商標「に化体した信用・名声及び顧客吸引力を希釈化させ、あるいは損なうおそれがあるものといわなければならない」とし、需要者の利益保護、取引の秩序維持の観点、さらには商道徳に反し、社会公共の利益に反するとして、登録を阻止しました。

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3.商品のデザインと、商標のデザインの選別
動物図形を使ったマークのデザイン研究その5」では、動物のシルエット図形のみからなる商標について、著名とまでは言えない商標同士の関係を観ていきました。
 上述のように、商標態様を特定する際は、コンセプトをしっかり決め、商標に反映させることが必要であり、かつ、動物のシルエット図形のような商標の場合は、多少の相違があっても、例えば、静止している状態と、歩行している状態は、「静的状態」という意味では共通すると捉えられ、特に被服のワンポイント等の使用態等も加味されると類似とされる可能性が高いです。他社の商標登録を思いがけず踏んでしまう確率は低くないと言えます。

 そこで、コンセプトを決め、それを表現化した商標を特定する際は、将来の展開の可能性も含めて特定するのがよいと思います。例えば、前向き犬図形を商標として選択(創造)した場合でも、横向きの犬図形も使用したいとの希望が考えられますので、その犬のキャラクター又は物語をある程度想定して、商標となり得る形状を特定するのがいいと思います。但し余りにたくさんの形状を特定するのは、商標の識別力の一貫性から好ましくありません。強いブランド構築の障害ともなり得ます。

 「動物図形を使ったマークのデザイン研究その5」で観たように、商品の模様や図柄等のデザインとしての犬図形と、識別標識たる商標としての犬図形とは分けて考えるべきです。前者について模倣排除やライセンスの関係上、商標登録をしておくというのは有効かと思いますが、意識としてでも、いわば「商品のデザインと、商標のデザインは分けて考えておくのがよいと思います。

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