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デザインのちから!

動物図形を使ったマークのデザイン研究その3

 今回は動物図形を使ったマークの商標登録について特許庁や裁判所の判断を種々観ていき、動物図形を商標として選ぶ際の注意点等考えてみたいと思います。(特許庁・裁判所の判断はブログ筆者一部加工あり。)

SHI-SA事件
 本件は、動物図形を使ったマークのデザイン研究その1に記載の①乃至④(詳細はこちら)の通り、出願段階で拒絶査定→不服審判で登録審決→異議申立て+取消訴訟→異議申立て+取消訴訟→異議申立てで登録、と、長い争いになった事案です。これら以外に無効審判の請求もされています。
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 以上の中から、いくつか商標の類否判断を以下で抜粋していきます。


       本件商標                  引用商標C(引用商標1)
SHI-SA 図形.jpg     PUMA 引用商標C.png
平成20年(行ケ)第10311 
(原々決定に対する取消訴訟)

まず下記観点から判断する旨示しています。

 商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして,商標の外観,観念または称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうちその一つにおいて類似するものでも,他の2点において著しく相違することその他取引の実情等によって,なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解すべきではない(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。

 両商標を比較した上以下のように認定・判断しました。

本件商標と引用商標1の対比
1.外観
(ア) 共通点
本件商標と引用商標1は,アルファベットの文字(SHI-SA, PUMA)が横書きで大きく表示されている点,その右上方に、四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれている点で共通する。また,本件商標と引用商標1における各上記文字は,いずれも横長の長方形の枠内にはめ込まれたかのごとく太字で表記され,個々の文字は縦長となっている点で共通している。そして,両商標における動物図形は,その向きや基本的姿勢のほか、跳躍の角度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中から足にかけての曲線の描き方について,似通った印象を与える。

(イ) 差異点
本件商標において大きく表示された文字は「SHI-SA」であり, 引用商標1において大きく表示された文字は「PUMA」であって、文字数、末尾の「A」を除き使用されている文字が異なるほか,本件商標は、間にハイフン(-)が表記されている点で異なっている。そして,両商標における動物図形については,本件商標の動物の方が引用商標1の動物に比べて頭部が比較的大きく描かれているほか,本件商標においては,口の辺りに歯のようなものが描かれ,首の部分に飾りのような模様が,前足と後足の関節部分にも飾りないし巻き毛のような模様が描かれ,尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており,飾りないし巻き毛のような模様が描かれている。これに対し,引用商標1の動物図形には模様のようなものは描かれず全体的に黒いシルエットとして塗りつぶされているほか,尻尾は全体に細く,右上方に高くしなるように伸び,その先端だけが若干丸みを帯びた形状となっている。このように,本件商標と引用商標1の文字と動物図形との組合せによる全体的な形状が共通しているものの,その違いは明瞭に看て取れる。

2.観念
(ア) 本件商標から生じる観念
・本件商標の動物図形からは直ちに特定の動物を想起しうるものではなく,「SHI-SA」 という文字は「シーサ」「シ・サ」「シサ」と様々に読めるものであって直ちに特定の観念を想起させるものではないが下部文字からは「沖縄のオリジナル」「保護者,守護者」「獅子犬」などの意味を読みとることができ, 「SHI-SA」文字及び動物図形と相まって,沖縄にみられる伝統的な獅子像である「シーサー」の観念が想起される。下部文字は、「SHI-SA」に比較して極端に小さい文字によりデザイン化されて表示されていることから,本件商標に接する需要者等から着目される部分ではないとの主張に対し、上記文字部分は相対的に小さくデザイン化されているとはいえ,十分に読みとることができるもので採用できないとした。
・ また被告は,沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」は沖縄で瓦屋根などにとりつける素朴な焼物の唐獅子像であり,本件商標のような跳躍するイメージとは程遠いものであると主張するが、「シーサー」は架空の動物であり,その形状には様々なものがあるが,概ねその特徴とされる点を挙げれば,たてがみないし首飾り,剥き出した牙,前足・後足の関節部分の毛,太くふっくらとした尻尾などである。また,その姿勢としては,上体を起こした状態で前足をついたものが多いが,四つん這いになったもの等様々な形態があり,また多くの場合には尻尾が上空に向かって炎のように逆立ち,その先端はすぼんでいる。本件商標の動物図形を上記の一般的な「シーサー」と比べると,本件商標に描かれた動物は上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いているところ,このような姿勢は「シーサー」の形態として一般的なものとはいえないが、本件商標に描かれた,首飾りのような模様,前足・後足の関節部分における飾りないし巻き毛のような模様,尻尾の全体的に丸みを帯びて先端が尖った形状等は,いずれも一般的な「シーサー」の特徴とされているところと一致する。そうすると,本件商標に描かれた動物図形は「シーサー」の特徴とされているいくつかの点を備えているということができ,動物図形だけをみて直ちに「シーサー」と理解されることがないとしても, 「SHI-SA」及び下部文字部分とあわせて見れば,「シーサー」を描いたものと理解することができるものである。
・したがって,本件商標からは,沖縄にみられる獅子像である「シーサー」の観念が想起される。

(イ) 引用商標1から生じる観念
・引用商標1にはと大きく表記されており,上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いた動物図形と相まって,動物の「ピューマ」の観念が想起される。「ピューマ」(puma,日本語の外来語表記では「プーマ」とも表記される)とは,南北アメリカに分布するネコ科の哺乳類で,アメリカライオン,ヤマライオン,クーガーなどの別名がある等。
・また,引用商標1はドイツのスポーツシューズ,スポーツウェア等のメーカーであるプーマ社の業務を表す「PUMA」ブランドの商標として著名であり、引用商標1からは「PUMA」ブランドの観念も生じる。
・したがって,本件商標からは沖縄にみられる獅子像である「シーサー」の観念が生じ,引用商標1からはネコ科の哺乳類「ピューマ」,「PUMA」ブランドの観念が生じるから,両商標は観念を異にする。

3.称呼
(ア) 本件商標からは, 「SHI-SA」の文字あるいは上記のような沖縄の獅子像の観念から「シーサ」あるいは「シーサー」の称呼が生じる。
(イ) 引用商標1からは, 「PUMA」の文字から「ピューマ」あるいは「プーマ」の称呼が生じる。

 なお、引用商標1の著名性を考慮すると,本件商標と引用商標1とに観念上の錯誤が生じ,その結果,本件商標から「周知著名なプーマの商標」(「PUMA」ブランド)の観念及び「プーマ」の称呼が生じるとの主張に対し、
裁判所は、引用商標の使用実態等を把握したうえ、「PUMA」ブランドは,上記のような特徴的なピューマの図柄によって取引者・需要者に印象付けられ,記憶されているものということができる一方、本件商標における動物図形は、その向きや基本的姿勢,跳躍の角度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中・腹から足にかけての曲線の描き方において上記「PUMA」ブランドの商標と似ている点があるが、取引者・需要者に印象付けられる特徴は「PUMA」ブランドの商標とは異なるとしました。

すなわち,本件商標に描かれた動物は,「PUMA」ブランドのピューマに比べて頭部が大きく,頭部と前足の付け根部分とが連なっているために,上半身が重厚でがっしりとした印象を与える。また,「PUMA」ブランドのピューマには模様は描かれず,輪郭のラインやシルエットですっきりと描かれているのに対し,本件商標では首,前足・後足の関節,尻尾に飾りや巻き毛のような模様が描かれている。さらに,「PUMA」ブランドのピューマの特徴である,右上方に高くしなるように伸びた細長い尻尾の代わりに,全体的に丸みを帯びた尻尾が描かれているているとして、異なる印象を与えるとしました。
 なお本件商標は主として,原告が代表取締役を務める観光土産品等の販売等を行う有限会社沖縄総合貿易が観光土産品たるTシャツ・エコバッグ・雑貨等を販売する際に使用されている点も多少考慮に入れています。
 よって、「PUMA」ブランドのピューマを記憶している取引者・需要者は,本件商標に接したときに「PUMA」ブランドのピューマを連想することがあるとしても,本件商標を「PUMA」ブランドの商標とまで誤って認識するおそれはないとしました。

裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官清水知恵子

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次に、原決定に対する取消訴訟における、両商標に関する認定・判断をみます。4条1項11号では争えないので、今度は、4条1項15号及び19号の該当性が争われました。19号は今回は省略します。

知財高裁平成22年7月12日判決 平成21年(行ケ)第10404号

2.本件商標と引用商標Cとの関係(4条1項15号該当性の有無(取消事由2))

本判決は以下の判例の観点に従い判断しています。

法4条1項15号にいう「『混同を生ずるおそれ』の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである。」(最高裁平成12年7月11日判決)

両商標の外観、観念及び称呼を認定したうえ、これらを比較して、混同を生ずるおそれについて以下のように判断しました。

1. 本件商標と引用商標Cとの類似性の有無
共通点
・本件商標と引用商標Cとは,中央ないしその近辺にアルファベットの文字からなる文字列が大きく横書きで記され,しかもこの文字列は,その全体が横長の長方形にはめ込まれたかのように,やや各文字の横幅及び各文字間の間隔を詰めて記され,かつ各文字の書体は縦方向の構成要素が横方向の構成要素よりも太く記されている点,上記文字列の右方に,右下から左上に向かって,大きな尻尾を有する四足動物が跳び上がるように前足と後足を前後に大きく開いている様子を側面から見た姿でシルエット風に描いた図形が配されている点が共通する。

相違点
・他方,本件商標と引用商標Cとは,前者では中央部分の文字列の下方にアルファベットで2段に横書きした文字列が配されている一方,後者ではそのような文字列が配されていない点,
概ね中央に配された文字列が,前者では角張った書体で記されているのに対し,後者では各文字の角の一部が丸められた書体で記されている点,
前者の動物図形が架空の動物である沖縄の伝統的獅子像であるシーサーの姿態と目されるのに対し,後者の動物図形が実在の動物であるピューマの姿態と目される点,
前者の動物図形が頭部及び尻尾が大きく,丸く,また前足が太く描かれて,ややずんぐりした印象を与える形状となっており,かつ頭部の周囲に首飾りと目される図形を配したり,口の部分に歯を描いたり,前足の肘に当たる部分や後足の膝裏に当たる部分に巻き毛のような装飾が施されたりしているのに対し,後者の動物図形は,体全体の輪郭が流れるような曲線によって描かれ,先端のみが若干丸みを帯びた細長い尻尾が右上方に高くしなるように伸び,大きく後ろに伸びた後足と対称を成しており,また頭部がやや小さく,尻尾が特に付け根部分にかけてやや細く,前足がやや細く描かれて,ほっそりした精悍な印象を与える形状となっており,本件商標の動物図形におけるような首飾りないし装飾が施されていない点が異なる。

 そうすると,本件商標の外観と引用商標Cの外観とは,概ね中央に外観の主要な部分をなし,看者の注意を惹くアルファベットの文字列部分を概ね同様の体裁で配した点,上記文字列部分の右方に,右下から左上に向かって,大きな尻尾を有する四足動物が跳び上がるように前足と後足を前後に大きく開いている様子を側面から見た姿でシルエット風に描いた図形を配した点で共通するものであるが、
中央に配されたアルファベットの文字の内容が異なる上、中央部分の文字列の下方の2段横書きの文字列の有無が異なる。引用商標Cの動物図形が流れるような曲線によって描かれほっそりした精悍な印象を与える形状となっているのに対し、本件商標の動物図形が頭部及び尻尾が大きく、ややずんぐりした印象を与える形状となっており、かつ引用商標Cの動物図形とは異なって、首飾りや歯を描いたり、前足の肘等に巻き毛のような装飾を施したりしている点が異なるものであって、本件商標と引用商標Cとの間の外観上の相違は決して小さなものではないというべきである。
他方,前記のとおり,引用商標Cからは「ピューマ」「プーマ」の称呼が生じるが、本件商標からは「シーサー」等の称呼しか生じないから、本件商標と引用商標Cとでは,生じる称呼が相違する。
また,引用商標Cからは南北アメリカに分布するネコ科の肉食哺乳動物である「ピューマ」,「プーマ」の観念又はプーマ社の「PUMA」ブランドの観念が生じるが、本件商標からは沖縄の伝統的獅子像である「シーサー」の観念が生じ、両者の観念が相違する。
そして「シーサー」は,あくまで架空の動物であって,主として沖縄県内で信奉される偶像であるにすぎず,実在の動物である「ピューマ」とは大きく異なるものである。
 以上のとおり、本件商標と引用商標Cとでは、生じる称呼及び観念が相違する上、外観が必ずしも類似するとはいえないとされました。

2.引用商標Cの周知著名性等
 引用商標Cが周知著名であること、中央の特徴的な文字列とその右方の跳躍する動物のシルエットの図形との組み合わせ及び配置がプーマ社の商標や標章以外の商標等においてしばしばみられるとの事情は存せず、引用商標Cは独創的なものということができるとされました。

3.本件商標の指定商品と補助参加人の業務に係る商品等の関係等
 引用商標Cを付したTシャツや帽子を販売しているから、本件商標の指定商品がプーマ社の業務に係る商品と,その性質,用途,目的において関連することは否定できない。原告が経営する沖縄総合貿易は主として沖縄県内の店舗やインターネットの通信販売で本件商標を付したTシャツ等を販売している一方、プーマ社が販売するTシャツや帽子等はさほど特殊な商品ではなく購買層が格別限定されるものでもないことにも鑑みれば,商品の取引者及び需要者は相当程度共通するものの、原告とプーマ社とではその販売規模が大きく異なるとされました。

検討
上記1乃至3によれば,引用商標Cは周知著名かつ独創的であり、商品の取引者・需要者は相当程度共通するものであるが、本件商標と引用商標Cとは生じる称呼及び観念が相違し、外観も必ずしも類似するとはいえないものにすぎない点、販売規模が比較的小規模である点に鑑みると、本件商標の指定商品たるTシャツ、帽子の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準としても、本件商標を上記指定商品に使用したときに、一定の緊密な営業上の関係若しくはプーマ社と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるとはいえない。4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」があるとはいえないと結論づけました。

プーマ社の主張に対する補足的判断として以下が示されました。
(ア)本件商標と引用商標Cとは,いずれもレタリングの文字に同一の姿態の動物図形を同じ配置で表してなるもので、その全体的な外観で共通し、本件商標に接した取引者・需要者において引用商標Cの動物図形を連想するものであるから、少なくとも広義の混同を生じる程度に類似すると主張するが、両商標は生じる称呼及び観念が相違するし,動物図形の描き方等が相違するため外観も必ずしも類似しないから主張は採用できない。

(イ) 法4条1項15号の「混同を生ずるおそれ」の有無を判断するに当たって斟酌すべき取引の実情は,指定商品全般についての一般的、恒常的な実情をいうのであって、沖縄の原告の店舗での使用というような単に当該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊ないし限定的な実情をいうのではない等と主張するが、上記の「混同を生ずるおそれ」の有無を判断するに当たり取引の実情として、現実の使用態様を勘案することができるから主張は採用できない。

(ウ)プーマ社商標のパロディであって、同社商標の信用をフリーライドし希釈化するものである等との主張に対し、「パロディ」なる概念は商標法の定める法概念ではなく講学上のもので、4条1項15号に該当するか否かは,あくまでも法概念である同号該当性の有無により判断すべきで、かつ、原告は引用商標C等のプーマ社の商標をパロディとする趣旨で本件商標を創作したものではないし、両商標とは生じる称呼及び観念が相違し、外観も必ずしも類似するとはいえないため、必ずしも同社商標をフリーライドするものとも希釈化するものともいうこともできない。

裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 真辺朋子
裁判官 田邉 実

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