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デザインのちから!

動物図形を使ったマークのデザイン研究その1

 今回は動物図形を使ったマークの商標登録について特許庁や裁判所の判断を種々観ていき、動物図形を商標として選ぶ際の注意点等考えてみたいと思います。(特許庁・裁判所の判断はブログ筆者一部加工あり。)

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SHI-SA事件

<経緯>
 本件は、下記①乃至④の通り、出願段階で拒絶査定→不服審判で登録審決→異議申立て+取消訴訟→異議申立て+取消訴訟→異議申立てで登録、と、長い争いになった事案です。これら以外に無効審判の請求もされています。

①拒絶査定と拒絶査定不服審判の結論: 本件商標(H17(2005)/6/21出願)に対し,特許庁は,引用商標A(本ブログ以下に掲載あり)、及び、引用商標Bと類似するとして商標法4条1項11号で拒絶査定(H18(2006)6/9)をしたが,原告の請求した不服審判審理で非類似の結論を得て登録審決が出された(H19(2007)/3/6)。

②異議申立て審理とその結論(1回目):プーマ社の異議申立て(H19(2007)/7/23)は,引用商標Cその他複数の商標に基づいて,法4条1項11号(類似)・15号(混同のおそれ)・19号(不正目的使用)の適用を主張、原々決定(H20(2008)/7/2)は引用商標Cと類似(4条1項11号)とし、取消決定を行った。

③取消訴訟(知財高裁平成20年(行ケ)第10311号)での判決(原判決)(H21(2009)2/10)の結論:原告は取消訴訟を提起したところ、引用商標Cとは類似する(4条1項11号)とした原々決定を取消し原判決は確定した。

④異議申立て審理とその結論(2回目):そこで再び異議事件が特許庁で審理され、特許庁は以下の理由で取消決定(H21(2009)10/29)をした。(i)拒絶査定不服審決において本件商標と引用商標Aとは非類似であるとの見解を変更し類似する(法4条1項11号違反)とし、(ii)原判決が法4条1項11号(類似)該当の有無を検討した引用商標Cとの関係で,本件商標は法4条1項15号(混同のおそれ)・19号(不正目的使用)に該当するとして取消決定(原決定)をした。

⑤取消訴訟(知財高裁平成21年(行ケ)第10404号)での判決(H22(2010)7/12)の結論:異議申立ての取消決定(原決定)の理由いずれも取り消し、原判決は確定した。
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 以上の中から、いくつか商標の類否判断を以下で抜粋していきます。

       本件商標                     引用商標A
SHI-SA 図形.jpg     引用商標A.jpg


(1)審査段階(拒絶査定不服審判)

 本件商標は引用商標B(省略)と、上記引用商標Aと類似とし拒絶査定されましたが、拒絶査定不服審判で、非類似とされました。その審判の判断は、本件商標の構成中から「SHI-SA」の部分は、中央部に太字で大きく顕著に表してなり、視覚上も右上段の架空のものと思しき動物が跳躍した様を側面から捉えた黒塗りの図形部分並びに下段の小さく表示された文字部分と分離して看取される点、観念上も構成全体を常に一体不可分のものとみなければならない格別の事情も見出し難い点から、独立して識別機能を有する」等としたうえ、「SHI-SA」は「シサ」の称呼をも生ずと認定し引用商標Aは、「シーサー」(B省略)と認定したうえ、外観、称呼及び観念のいずれにおいても非類似の商標と判断されました。


(2)取消訴訟(知財高裁平成21年(行ケ)第10404号)
 異議申立て(原決定)で、本件商標は、引用商標Aと類似する(4条1項11号に該当)と判断しました。これに対し、その取消訴訟では、以下のように判断されました。
 
 本件商標と引用商標Aとは、沖縄の伝統的獅子像である「シーサー」の観念が共通し、全部又は一部で称呼を共通にしても、本件商標では中央に配された「SHI-SA」の文字列が強調され,その右方に動物図形部分がシルエットで配されているが、引用商標Aではこのような外観を有しない点など、外観の著しい相違により、類似しない。また、本件商標は主として沖縄県内の原告経営会社・沖縄総合貿易の店舗で観光土産品たるTシャツ等の商品に付して使用されたり,沖縄総合貿易のインターネットの通信販売でTシャツ等の商品に付して使用される一方、引用商標Aの使用態様は不明であることも考慮されました。

 なお、本判決は以下の判例の観点に従い判断しています。

「商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によつて取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。」「商標の外観,観念または称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,従つて,右三点のうちその一において類似するものでも,他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によつて,なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解すべきではない。」(最高裁昭和43年2月27日判決)

そして,「・・・複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである。」(最高裁昭和38年12月5日判決,同平成5年9月10日判決,同平成20年9月8日判決)

 引用商標Aとの関係では、常識的には称呼が共通すると考えられますが、この点どう判断されたのでしょう?

 裁判所は、本件商標の称呼は、全体の構成から「シーサオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ」等の一体不可分の称呼が生じうることに加え、「SHI-SA」の文字、沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」の観念から、本件商標からは「シーサー」ないし「シーサ」の称呼が生じると認定しました。

 原告は称呼が共通すると類似とされる!と思ったのででしょう。構成要素は分離して観察できず、全体として「シサオキナワオリジナルガーディアンシシドッグ」との称呼のみ生じると主張しましたが、「SHI-SA」は大きく印象的な体裁及び書体で強調して記され、本件商標の面積の相当部分を占めること、動物図形部分からは何らの称呼も生じないか少なくとも「SHI-SA」部分と独立して称呼を生じるものではないことで、「SHI-SA」部分ないし同文字列部分と動物図形部分を合わせた構成要素が取引者・需要者に商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとされました。

 一方、 引用商標Aも「シーサー」の称呼が生じると認定されました。原告は、引用商標Aはドイツ語からなる引用商標Bと旧連合商標の関係にあり,引用商標Aはドイツ語で「射る」という動詞と関係がある「Schiesser」から生じたもので、引用商標Aから「弓」や「射る」との観念か、「星」の観念が生じる等と主張しましたが、裁判所は需要者等の間でドイツ語の引用商標Bやこれと引用商標Aとの間に関連があると広く知られている証拠はなく、ドイツ語を解さない者において「射手」「弓」等と関係のある語と当然に認識されず、引用商標Aからこれらの観念は生じないこと、引用商標Aの最初の1字のみが図案化されているにすぎず,六稜星の図案が他の構成部分による印象を打ち消すほど強い印象を与えないため引用商標Aから「星」の観念は生じないこととしました。結局、我が国国民は何らの説明なく「シーサー」の文字列に接すれば,沖縄の伝統的獅子像である「シーサー」を連想するのが通常であると認定しました。

 但し結論としては、上述のように称呼・観念が類似しても、外観の著しい相違により全体として非類似とされました。「SHI-SA」部分を分離した点は、拒絶査定不服審判の結論と同じですが、非類似と判断する際の論理構成が違っていました。私見では、知財高裁の判断が妥当であったと思います。拒絶査定不服審判審理の結論は、「SHI-SA」のみ分離とできると判断した場合は、本件商標から「シーサー(シーサ)」のみの称呼が生じると判断するのは不自然です。審査段階で本件商標の称呼の判断に誤りがあったと考えます。

(ブログ筆者にて裁判所判断一部加工あり。)

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