取組み・活動

デザインのちから!

動物図形を使ったマークのデザイン研究その2

 今回は動物図形を使ったマークの商標登録について特許庁や裁判所の判断を種々観ていき、動物図形を商標として選ぶ際の注意点等考えてみたいと思います。(特許庁・裁判所の判断はブログ筆者一部加工あり。)

SHI-SA事件
 本件は、動物図形を使ったマークのデザイン研究その1に記載の①乃至④(詳細はこちら)の通り、出願段階で拒絶査定→不服審判で登録審決→異議申立て+取消訴訟→異議申立て+取消訴訟→異議申立てで登録、と、長い争いになった事案です。これら以外に無効審判の請求もされています。
==============================================
 以上の中から、いくつか商標の類否判断を以下で抜粋していきます。

2.異議申立て(異議2007-900349)
 本件は、2007年7月23日に異議申立てがなされ、2010年10月4日に確定しました。
 申立人は、プーマ アーゲールドルフ ダスラー スポーツ(以下「プーマ―社」)です。
 2008年年10月29日になされた異議の決定に対し、知財高裁において決定取消の判決(平成21年(行ケ)第10404号 平成22年7月12日判決)がなされ、異議での審理がさらに続行して以下のような維持決定がなされました。

    本件商標                    引用商標2 (引用商標1は別途検討)
SHI-SA 図形.jpg         PUMA 引用商標2図形のみ.png
 
<引用商標2(動物図形のみ)との関係について>
外観
共通点:両商標における動物図形において、その向きや基本的姿勢のほか、跳躍の角度、前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度、胸・背中から足にかけての曲線の描き方について、似通った印象を与える

差異点:本件商標は構成中に「SHI-SA」の文字を大きく表し、他に「OKINAWAN ORIGINAL GUARDIAN SHISHI-DOG」の文字を有するが、引用商標は、動物図形のみである点で異なっている。そして、本件商標の動物の方が引用商標の動物に比べて頭部が比較的大きく描かれているほか、本件商標においては、口の辺りに葉のようなものが描かれ、首の部分に飾りのような模様が、前足と後足の関節部分にも飾りないし巻き毛のような模様が描かれ、尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており、飾りないし巻き毛のような模様が描かれている。これに対し、引用商標2の図形には模様のようなものは描かれず、全体的に黒いシルエットとして塗りつぶされている、尻尾は全体に細く、右上方に高くしなるように伸び、その先端だけが若干丸みを帯びた形状となっている。構成全体において明らかに異なり、両者の図形においてもその違いは明瞭に看て取れる。

観念
沖縄にみられる伝統的な獅子像「シーサー」の観念が想起される。引用商標2からは、動物を描いてなるものであるが、抽象的に描かれているものであり、特定の動物を想起させるものではなく、したがって、格別の観念を生じない。引用商標2は特定の観念を生じないから、観念上比較できない。

称呼
引用商標2からは称呼が生じないので、比較できない。

引用商標2との類否の結論:
 外観、観念及び称呼とのいずれにおいても類似しない。

 
 私見では、引用商標2は、観念は動物のプーマ及びプーマ社のブランドの観念が生じ、これに相応して「プーマ」又は「ピューマ」と称呼が生ずると考えられますが、いずれも生じないと判断されました。従って、他の動物図形で争った審決例や裁判例・判例を探して、動物図形のみからなる商標の外観及び称呼はどのように扱われるか、もっと観ていく必要があると思います。いずれにしても図形同士の類否判断は、外観が一番重視されることは間違いないように思います。

 以下の判断では、文字部分も含まれますが、同じ「シーサー」でも動物図形部分の印象がかなり違って見えます。

===========================================
2.無効審判(無効2007-890127)

      本件商標                    無効審判時の引用商標
SHI-SA 図形.jpg       image001.jpg

  後述の異議申立てから始める一連の争いとは無関係に、上記引用商標を使用していたBさんが、本件商標の登録に無効審判請求をしました(2007/8/2)。那覇市国際通りでの狭い範囲での争いで、デザインを盗用した等の主張もあり、商標法4条1項7号違反が主張されましたが、私的領域にまで拡大解釈することをよしとせず、この点いついては認められませんでした。
(4条1項7号の参考裁判例:知財高裁平成19年(行ケ)第10391号判決)

 そして類似の判断については、 いずれからも「シーサー」の称呼を生ずる点においては共通性があるといえるが、本件商標からは、て「シーサーオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ」の称呼を生じ、引用商標からは「シーサーオキナワシシライオン」の称呼を生じ、その構成音数、音構成に差異を有しているから、両商標は、十分に聴別し得るとしました。
 
 さらに、本件商標に描かれた動物図形は「シーサー」の特徴(ブログ筆者:首・前足・後足・尻尾に巻き毛のような形状。)とされているいくつかの点を備えているということができ、
引用商標は、その構成中の文字から、「シーサー」を表したと思しき図形と看取できるが、動物図形だけをみて直ちに「シーサー」と理解されないとし、
その向きや基本的姿勢のほか、跳躍の角度、前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度、胸・背中から足にかけての曲線の描き方について似通った印象を与えるとしても、両商標は、その外観全体において顕著な差異を有する別異の商標で類似しないとし、本件商標の登録は維持されました(確定日:2012年4月25日)。

 全体はなんとなく似ているのだが、各構成要素を観ていくと、それぞれが相違しているので、結局、非類似とする判断は、悩ましい問題としてよく見られます。意匠法下での類否判断でもよく問題となるように思います。そのような事情から意匠法では部分意匠制度が導入されたという経緯があります。

ページの先頭に戻る