取組み・活動

デザインのちから!

椅子等の実用品のデザインの著作物性の研究1

知財高裁平成27年4月14日判決 平成26年(ネ)第10063号 

著作権侵害行為差止等請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所平成25年(ワ)第8040号)


 本件で問題となった椅子は、確かに実用品として又は機能的なデザインとして評価されているものかと思いますが、形状はユニークで、一見して、北欧のあの有名なデザインだ!と解るようなものだと思います。ブログ筆者私見ではデザイン業界ではデザイナーやデザインを勉強する者、インテリアデザインに強い興味を持つ人々の間で、アート的なデザインとして位置づけられているものかと思います。とはいえ「アート的なデザイン」なんて感覚的な言葉は法律の世界では通用しません。本裁判ではどのような表現で問題を解いていったのでしょうか? なお、本裁判でも、控訴人オプスヴィック社代表者は,現在のノルウェーを代表する椅子のデザイナーとして著名であり」と認定しています。そして「昭和47年頃、控訴人製品をデザインして控訴人ストッケ社から発表し」、「その後、控訴人ストッケ社が、控訴人製品を製造、販売、輸出している」点、「日本国内においては、昭和49年から、輸入、販売されるようになり、現在に至っている」点等が認定されています。

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控訴人(原告)  

 ピーター・オプスヴィック・エイエス(以下「控訴人オプスヴィック社」)、及び、ストッケ・エイエス(以下「控訴人ストッケ社」)/訴訟代理人  三村量一弁護士

被控訴人(被告) 

 株式会社カトージ/訴訟代理人 後藤昌弘弁護士


事案の概要

 控訴人らはノルウェー法人で、被控訴人は日本法人であり各種育児用品,家具の販売等を目的とする株式会社です。控訴人製品は乳児等も利用可能であるが主として、幼児を対象とした椅子(「幼児用椅子」)(以下「控訴人製品」)であり、その外観、構成部材並びに性状及び形状は、別紙1「控訴人ら製品目録」及び別紙3「控訴人製品及び被控訴人製品の概要」のⅠのとおりですが、以下に、同別紙から控訴人製品の写真の一部を引用します。

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 これに対し、被控訴人製品も幼児用椅子であり、その外観、構成部材並びに性状及び形状は、別紙2「被控訴人製品目録」及び別紙3「控訴人製品及び被控訴人製品の概要」のⅡのとおりです。遅くとも平成23年1月以降被控訴人製品1を、平成24年5月以降被控訴人製品2を、平成18年2月以降被控訴人製品3を、平成22年8月以降被控訴人製品4を、それぞれ製造、販売しており、さらに、現在(裁判当時)、被控訴人製品5及び6を製造、販売していました。なお、被控訴人製品1については、平成25年2月に製造を終了しました。同別紙から被控訴人製品1乃至6の写真を一部を引用します。

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 本件は,控訴人らが,被控訴人に対し被控訴人製品の形態が、「控訴人製品」の形態的特徴に類似しており,被控訴人による被控訴人製品の製造等の行為は,①控訴人オプスヴィック社の著作権及び同著作権について控訴人ストッケ社の有する独占的利用権(以下「控訴人ストッケ社の独占的利用権」ともいう。)を侵害するため、控訴人オプスヴィック社において,著作権法112条1項及び2項に基づき,被控訴人製品の製造,販売等の差止め及び破棄を求め,②控訴人オプスヴィック社において,著作権法114条3項,不競法4条,5条3項1号,民法709条に基づき,控訴人ストッケ社において,著作権法114条2項,不競法4条,5条2項,民法709条に基づき,それぞれの損害賠償金及びこれらに対する原審訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案です。本件では、この他、不正競争防止法に基づく請求等もなされましたが、今回の本ブログでは、著作権に係る裁判所の判断のみ取り上げます。

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当裁判所は、争点⑴ 著作権又はその独占的利用権の侵害の有無について判断するにあたり、以下のような判断基準『』を示しました。(改行、下線、太字はブログ筆者。)


『(ア)a⒜ 著作権法は,同法2条1項1号において,著作物の意義につき,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定しており,

同法10条1項において,著作物を例示している。控訴人製品は,幼児用椅子であることに鑑みると」「同項4号所定の「絵画,版画,彫刻その他の美術の著作」に該当するか否かが問題になるものと考えられる。』


『この点に関し,同法2条2項は,「美術の著作物」には「美術工芸品を含むものとする。」と規定しており,前述した同法10条1項4号の規定内容に鑑みると,「美術工芸品」は,同号の掲げる「絵画,版画,彫刻」と同様に,主として鑑賞を目的とする工芸品を指すものと解される。しかしながら,控訴人製品は,幼児用椅子であるから,第一義的には,実用に供されることを目的とするものであり,したがって,「美術工芸品」に該当しないことは,明らかといえる。』


  ブログ筆者感想:通常、応用美術の著作物性を検討する際は、「美術工芸品(2条2項)」との関係で検討されているように思います。この点、今後他の裁判例を観て検討します。しかし、当裁判所では、「幼児用椅子は美術工芸品とは関係ない」と言い切っているように思います。じゃあ、どうするのか、といえば、以下のように、10条1項4号の「美術の著作物」及び著作権の法目的に立ち返っています。


『⒝ そこで,実用品である控訴人製品が,「美術の著作物」として著作権法上保護され得るかが問題となる。

「実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とする表現物(以下,この表現物を「応用美術」という。)が,「美術の著作物」に該当し得るかが問題となるところ,

応用美術については,著作権法上,明文の規定が存在しない」が、「著作権法が,「文化的所産の公正な利用に留意しつつ,著作者等の権利の保護を図り,もって文化の発展に寄与することを目的と」していること(同法1条)に鑑みると,表現物につき,実用に供されること又は産業上の利用を目的とすることをもって,直ちに著作物性を一律に否定することは,相当ではない

法2条2項は,「美術の著作物」の例示規定にすぎず,例示に係る「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても,同条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,「美術の著作物」として,同法上保護されるものと解すべきである。』

 

『b 著作物性の要件についてみると,ある表現物が「著作物」として著作権法上の保護を受けるためには,

「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを要し(同法2条1項1号)

「創作的に表現したもの」といえるためには,当該表現が,厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの,作成者の何らかの個性が発揮されたものでなければならない。表現が平凡かつありふれたものである場合,当該表現は,作成者の個性が発揮されたものとはいえず,「創作的」な表現ということはできない。

応用美術は,装身具等実用品自体であるもの,家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの,染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々であり」、「表現態様も多様であるから,用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。』


  ブログ筆者感想等:以上により、「美術工芸品」というフィルターを通すことなしに、「美術の著作物性」に該当するかについて、著作権の法の趣旨に鑑み、所定の著作物性の要件を充たすものについては同様に保護すべきとし、かつ、他の著作物性の判断基準を、特別扱いすることなく持ってきているところが新鮮なような気がします。この裁判例以前にそのような判断があったか、あとあと検討します。

 では、ピーター・オプスヴィック氏の椅子(ストッケ社)についてどのように判断したのでしょうか? (研究2に続く)

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