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デザインのちから!

椅子等の実用品のデザインの著作物性の研究2

知財高裁平成27年4月14日判決 平成26年(ネ)第10063号 

著作権侵害行為差止等請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所平成25年(ワ)第8040号)

 「製品デザインの著作権による保護の研究1で、上記裁判例を取り上げました。そして、対象となっている椅子のデザインについて、著作物性を認めるか否か判断するにあたり、当裁判所が示す応用美術一般についての判断基準を観ました。研究2では、それに当て嵌めた具体的な判断を観ていきます。


 本件幼児用椅子の特徴的部分を認定するにあたり、他に似たような製品をいくつか挙げ、その構成態様を比較して、かつ、控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴が,幼児用椅子としての機能に係る制約により,選択の余地なく必然的に導かれるものということは,できないことも確認した上で、特徴的部分を導き、かつ、その部分において個性が発揮されており,「創作的」な表現というべきであると認め、著作物性が認められ、「美術の著作物」に該当するとされました。詳細は以下のようになります。

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当裁判所の判断(研究1より続き) 『』は、判決文より引用(下線、太字、一部改行はブログ筆者)。


『(イ)a オフィスチェア,ソファ,スツール等を別として,ダイニングチェア,リビングチェア,学習用の椅子など,一般的に家庭で用いられる1人掛けの椅子は,子供用のものも含め,4本脚のものが比較的多い」。「独立行政法人国民生活センターが実施した乳幼児用チェアの安全性のテストに係る報告書においても,4本脚の乳幼児用チェアが図示されている・・・」等のため、「控訴人製品及び被控訴人製品が属する幼児用椅子の市場においても,4本脚の椅子が比較的多いものと推認でき」、「控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴は,「左右一対の部材」の2本脚である点において,特徴的なものといえる。』


『b⒜ ・・・平成18年1月発行の雑誌「BabyLife no.1」・・・に掲載されている、当時日本国内で流通していた幼児用のハイチェアのうち」「ウィッパーズ スウィングチェアー」、「ゴイター キッドヒット」、「スクスク すくすくチェアFX」、「シャート スターハイチェア」、「アップリカUN マミーズカドル」、「平成5年11月発行の雑誌「狭さ克服センスアップ・レッスン 夢を育む子供部屋」掲載の「ダックチェア」、「株式会社匠工芸のホームページ」に掲載の「パロットチェア」、「平成14年11月発行の文献「近代椅子学事始」に掲載の「コイノドチェア」並びに平成2年10月発行の文献「家具デザインの潮流 チェアデザイン・ウォッチング 愛知県」に掲載の「T-5427」は、「いずれも2本脚の椅子であり,「左右一対の部材A」が「床面から斜めに立ち上がっている」構成を有している。』

    ブログ筆者:上記各椅子を本ブログに掲載することはできないのですが、その名前で検索して

           ヒットしたHPをリンクしました。整合性の正確さは保証できませんのでご了承下さい。

           また、中には販売中止のものもあり得ます。


『⒝ⅰ 「シャート」,「ダックチェア」,「パロットチェア」,「コイノドチェア」及び「T-5427」は,いずれも「部材Aの内側」に形成された「床面と平行な」「複数」の「溝に沿って部材G(座面)及び部材F(足置き台)」の両方を「はめ込んで固定し」たものでないことは,明らかといえる。

ⅱ 他方,「ウィッパーズ」,「ゴイター」,「スクスク」及び「アップリカUN」は,「部材G(座面)」及び「部材F(足置き台)」については,訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴と同様の特徴を備えているとみられる(ただし,「ゴイター」の足置き台は,固定されている可能性がある。)が、「控訴人製品は,「部材A」と「部材B」の成す角度が約66度であるところ」、「「ウィッパーズ」及び「ゴイター」のいずれも,「部材A」と「部材B」の成す角度は,より直角に近いことが看取できる。また,控訴人製品は,「部材A」が「部材B」前方の斜めに切断された端面でのみ結合され,直接床面に接しているところ,このような形態は,「ウィッパーズ」,「ゴイター」,「スクスク」及び「アップリカUN」のいずれにおいても,見られない。』


『以上に鑑みると,「ウィッパーズ」,「ゴイター」,「スクスク」及び「アップリカUN」は,「部材A」が「床面から斜めに立ち上がっている」客観的形態において,鋭角を形成している控訴人製品とは異なるものといえる(なお,「アップリカUN」の形態については,控訴人らが,アップリカ・チルドレンプロダクツ株式会社を被告として提起した別件の著作権侵害行為差止請求事件〔東京地方裁判所平成21年(ワ)第1193号〕につき,平成22年11月18日に言い渡された判決において,不競法2条1項1号の「商品等表示」として控訴人製品の形態と類似する旨判断されており,同判決は確定しているが〔甲50及び弁論の全趣旨〕,この点は,上記認定を左右するものではない。)。』


『ⅲ 控訴人製品における「部材A」と「部材B」の成す角度は,前述した「シャート」,「ダックチェア」,「パロットチェア」,「コイノドチェア」及び「T-5427」に比しても,小さい。また,「部材A」と「部材B」の結合態様についても,控訴人製品と同様のものは,上記のうち「シャート」のみである。控訴人製品は,上記の「部材A」と「部材B」の成す角度及び結合態様によって,他の2本脚の椅子に比して,鋭角的な鋭い印象を醸し出している。』


『c 幼児用椅子としての機能に着目してみると,財団法人製品安全協会作成に係る「乳幼児用ハイチェアの認定基準及び基準確認方法」・・において,乳幼児用ハイチェアの安全性品質につき」、「安全性品質基準」が定められているところ,「外観,構造及び寸法」の項目の「認定基準」においては・・・抽象的記載」や、安全性の観点から許容される高さや各部材の寸法の範囲,強度などの記載がみられるにとどまり,具体的な形態を指定する記載はない。また,幼児用椅子という用途に鑑みると,使用する幼児の身体の成長に合わせて座面及び足置き台の高さを調節する必要性は認められるが,同調節の方法としては,控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴における方法」、すなわち「・・・適宜、「部材G(座面)及び部材F(足置き台)」をはめ込む溝を変えて高さを調節するという方法以外にも,ボルトやフック,ねじ等の留め具を用いるなど種々の方法が存在する』。

『以上に鑑みると,控訴人製品の概要のとおりの,控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴が,幼児用椅子としての機能に係る制約により,選択の余地なく必然的に導かれるものということは,できない。』


『d 以上によれば,控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴は,

「左右一対の部材A」の2本脚であり,かつ,「部材Aの内側」に形成された「溝に沿って部材G(座面)及び部材F(足置き台)」の両方を「はめ込んで固定し」ている点,

②「部材A」が,「部材B」前方の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接している点及び両部材が約66度の鋭い角度を成している点において,作成者である控訴人オプスヴィック社代表者の個性が発揮されており,「創作的」な表現というべきである。したがって,

控訴人製品は,前記の点において著作物性が認められ,「美術の著作物」に該当する。』

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  ブログ筆者:著作権法で、椅子のような製品デザインの著作物性が認められにくい背景として、意匠法との関係が考慮されることが多いです。当裁判所でもそのような被控訴人の主張に対して、意匠法と著作権法との関係及び著作権法で保護される範囲の基準等について述べられました。次回この点についてみていきます。(研究3へ)

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 結論としては、以下のようになりました。


『ア ・・・控訴人製品の形態的特徴につき,

①「左右一対の部材A」の2本脚であり,かつ,「部材Aの内側」に形成された「溝に沿って部材G(座面)及び部材F(足置き台)」の両方を「はめ込んで固定し」ている点

並びに

②「部材A」が,「部材B」前方の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接している点及び両部材が約66度の鋭い角度を成している点において著作物性が認められる。

このことから,控訴人オプスヴィック社の著作権及び控訴人ストッケ社の独占的利用権の侵害の有無を判断するに当たっては,控訴人製品において著作物性が認められる前記の点につき,控訴人製品と被控訴人製品との類否を検討すべきである。』


『・・・被控訴人製品は,いずれも4本脚であるから,上記①の点に関して,控訴人製品と相違することは明らか-といえる。


他方,被控訴人製品は,4本ある脚部のうち前方の2本,すなわち,控訴人製品における「左右一対の部材A」に相当する部材の「内側に床面と平行な溝が複数形成され,その溝に沿って部材G(座面)及び部材F(足置き台)をはめ込んで固定」しており,上記②の点に関しては,控訴人製品と共通している。

また,被控訴人製品3,4及び6は,「部材A」と「部材B」との結合態様において,控訴人製品との類似性が認められる。


しかしながら,脚部の本数に係る前記相違は,椅子の基本的構造に関わる大きな相違といえ,その余の点に係る共通点を凌駕するものというべきである。


以上によれば,被控訴人製品は,控訴人製品の著作物性が認められる部分と類似しているとはいえない。』


『(イ) ・・・相当数の需要者が,「TRIPP TRAPPと,カトージは形がほとんど一緒で」・・・など,控訴人製品と被控訴人製品とが類似しているという趣旨に理解し得る意見や感想を述べているが,これらは,いずれも控訴人製品において著作物性が認められる点に着目したものであるか否かは不明であり,前記結論を左右するものとはいえない。』


『ウ したがって,被控訴人による被控訴人製品の製造,販売は,控訴人オプスヴィック社の著作権及び控訴人ストッケ社の独占的利用権のいずれも,侵害するものとはいえない。』


裁判長裁判官 清水節

裁判官 新谷貴昭

裁判官 鈴木わかな

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