1. 原決定の判断について
「両商標は・・・いずれも左向きの犬のシルエットの図形よりなるものであるとこ
ろ、子細に観察すれば、本件商標の犬は、引用商標の犬より頭の位置がやや低く、腹回りがやや太目であり、前足がやや開いている等の点において差異を有する」とした本件決定の差異点の認定に原告主張の誤りがあるとまでいうことはできないとし、本件商標が歩行状態か静止状態かは明らかなことは言えず、歩行状態でも静止状態でも、「シルエットで表された一瞬の状態の姿態のみから、本件商標の犬が歩行状態であるか、立ち止まった状態であるかにつき、本件商標の指定商品に係る一般的な需要者が確定的な印象ないし認識を得ることはないと言わざるを得ない」としたうえ、両商標は「静的な状態にあるとの印象を受けることは明らかである」としました。 従って、異議の審理で「本件商標の犬につき、静的な状態にあるとの範囲を超えて、静止している状態(立ち止まっている状態)であると認定した限度で誤りであるといわざるを得ない」と判断しました。 犬の種類についても争いましたが、 「両商標とも大型犬のシルエット図形からなる点で共通するものとし、原告の主張する両種類の犬の体型の相違は、その相違自体を両商標に表された限度でその間の差異点として考慮すれば足りる」と判断されました。
2. 外観の類否について検討・判断
「本件商標と引用商標とは、ともに大型犬の立位の図形をシルエット状に黒塗りで表してなり、どちらの犬も左向きで、駈けたり、跳躍したりしていない静的な状態である点において共通する。そして、これらの共通点は、時と所を異にして離隔的に各商標に接した場合に一見して看者(看者としては、両商標の指定商品に係る一般的な需要者を想定すべきところ、引用商標についても、指定商品中に「被服」を含むところから、その指定商品に係る一般的な需要者は、犬ないし動物に特段の関心を持たない者を含む広範な一般消費者であることは本件商標の場合と同様である。)の目を引く両商標の構成上の基本的な要素に係るものであって、それぞれ看者に強く印象付けられるものであり、したがって、この点の共通性のゆえに、本件商標と引用商標とは、その外観全体から直ちに受ける視覚的印象が著しく似通ったものとなることが認められる。」
他方、「本件商標と引用商標とは、
①足部の構成において、本件商標の犬は、足が太く、前足と後足をそれぞれ大きく開き、交互に踏み出しているのに対し、引用商標の犬は、本件商標の犬に比べ足が細く、前足はきちんとそろえており、後足はやや開いている点、
②頭部の構成において、本件商標の犬は、まっすぐ前方に正対しており、顎を引き、全体的に頭部が低く、頭部と背中とがほぼ一直線上にあるのに対し、引用商標の犬は、斜め上方を見上げており、顎を上げ、全体的に頭部が高く、頭部が背中より上方に位置する点、
③胴部の構成において、本件商標の犬は全体的に太いのに対し、引用商標の犬は、中ほど下側に山形のえぐれ部が存在し、本件商標の犬に比べ全体的にスマートである点、
④頭部から背中を経て尾に至るラインの構成において、本件商標の犬は、仮想地面に平行なライン上に頭部が位置し、首部においてなだらかに下降した後、仮想地面に平行なライン上に背中が位置し、尾に至ってなだらかに上昇するのに対し、引用商標の犬は、仮想地面に対し左上がりのライン上に頭部が位置し、首部において急に下降し、仮想地面に平行なライン上に背中が位置するものの、臀部に接近するにつれて下降し、尾において仮想地面に平行となる点において差異があることは、当事者間に争いがない。
しかしながら、これらの差異点のうち、①の足部の太さに関しては、引用商標の犬の後足の足先の細さが多少目立つが、犬として不自然な感を与える程度のものではなく、また、それ以外の部分では、本件商標と引用商標とに同時に接した場合には引用商標の犬の足がやや細いことが看取できるとしても、離隔的に接した場合にはほとんど把握することができない程度の微差でしかない。①の足の開き具合については、上記のとおり、両商標の犬とも静的な状態であることが強く印象付けられる結果、看者の印象にさほど残るものとは認められない。②の頭部の構成に関しては、両商標の犬の頭部の角度(上向きの程度)に係る差異や、両商標の犬の頭部と背中との位置関係の差異等はいずれも微差というべきであって、本件商標と引用商標とに同時に接した場合には看取できるとしても、離隔的に接した場合には明りょうに把握できる程度のものということはできない。③の胴部の構成に関しては、本件商標の犬の胴体部分が全体として多少太めであるとの印象を与えるが、犬として不自然な感を与える程度の太さではなく、また、山形のえぐれ部は、引用商標の犬よりは程度が小さいが、本件商標の犬においても見いだすことができ、これらの差異点に係る各構成が看者に残す印象は、両商標ともさほど強いものということはできない。④の頭部から背中を経て尾に至るラインの構成に関しては、本件商標と引用商標とに同時に接した場合には看取できるとしても、離隔的に接した場合には明りょうに把握できる程度のものではなく、特に尾の態様については、両商標の犬ともに、尾が上がっている(垂れていない)点がまず看者の目に付き、差異点に係るその角度(尾が上がっている程度)は印象に残るようなものではない。
本件商標と引用商標とが、構成上の基本的な要素に共通点を有し、その共通性のゆえに、その外観全体から直ちに受ける視覚的印象が著しく似通ったものとなる」。「これに対し、本件商標と引用商標との差異点は」「両商標に離隔的に接した場合には明りょうに把握できない程度の微差であるか、そうではないとしても、看者の印象に残り難いものであるのみならず、いずれも両商標の構成上の細部にわたる要素に係る差異であるにすぎない。そうすると、そのような差異点から看者が受ける印象の相違は、上記の外観全体から直ちに受ける視覚的印象をさほど減殺するものではなく、簡易、迅速を重んじる取引の実際においては、この点が明りょうに意識されるものとも認め難い。」と判断しました(下線ブログ筆者。)
なお、「原告は、・・・本件商標については「近所をのんびりと散歩(歩行)していた大型犬の姿態」と、引用商標については「飼い主の顔を見るように顔を上げつつ、きちんと静止している賢そうな大型犬の姿態」と、それぞれ自己の記憶にある犬の具体的な姿態と関連付けを行い、そのようなイメージの商標として理解、記憶し、時や所を異にして接した場合にも、混同が生ずることはな」との主張に対し、「本件商標の犬が歩行状態であることを認めることができないことは上記のとおりであって、・・・外観全体から直ちに受ける視覚的印象は著しく似通っており、仮に、原告主張のように、自己の記憶にある犬の具体的な姿態と関連付けを行って、商標のイメージを理解、記憶するということがいえるとしても、本件商標及び引用商標からそれぞれ形成されるイメージの間に、原告主張のような明りょうな相違が生ずるものとは到底認め難い。」としました。
「また、原告は、引用商標の犬は静的であるが、歩行状態を表した本件商標の犬は動的であると主張し、さらに、本件商標の犬は全体として丸みを帯びて穏やかな印象を与えるが、引用商標の犬は全体として精かんな印象を与えるものであって、上記各相違は明りょうであるとも主張するが、これらの主張を採用し難いことも、上記説示から明らかである。」としました。
裁判長裁判官 篠原勝美
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「サラブランド㈱」名義の他の犬図形商標登録
以下のような登録商標があります(犬図形の一部です)。
なお、「サラブランド」は現在、廃止されているようです。
Yahoo!知恵袋では、「シャツを買ったのですが、とてもよい品で重宝していました」と述べられた上で、お店はどうなったか?という質問が掲載されています。それに対して、回答があり(質問者・回答者匿名)、PDF情報(http://www.yaginet.co.jp/ir/kaiji/image/20090417kogaisya.pdf)も掲載した上、閉店になったことを回答しています。回答者さんも愛用していたと述べておられます。
ブログ筆者の勝手な感想ですが、せっかく評判がよかった「サラブランド」なので、廃止してしまうのはもったいないですね。ブランドだけ、親会社の事業と切り離して、他社に売ってもよかったように思いますが、そのような事態を考えると、なおさら、「一貫性のあるブランド(商標)のデザイン」を一つ作るべきだったように思います。
親会社と考えられる「㈱ヤギ」名義の他の犬図形商標登録
以下のような犬図形の商標登録があります(犬図形の一部です)。
各犬図形商標はかわいらしく、被服等のデザインとしてはよいと思いますが、ブランドのデザインと、被服等の商品のデザインとを分けて考えて登録をすべきだったように思います。
確かに、模様としてデザインした場合でも、商標と観られてしまう場合もあると思いますが、少し人々に浸透するよう『識別力の一貫性』という観点から、デザインを絞り込んでもよいように思います。
なお、版権事業もやっておられたようなので、そのためにバリエーションのあるデザインが必要だったのかもしれませんが、その場合でも、統一的なブランドの世界観を構築できればよかったのではないかと思います。