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デザインのちから!

動物図形を使ったマークのデザイン研究その6

 「動物図形を使ったマークのデザイン研究その5」で、「サラブランド」に係る犬図形の商標の類否問題について、取消決定(異議申立て)に対する取消訴訟の概要を観てきました。ブログ筆者の感想では、似ていないとも言えなくはない、という事案です(実際審査で一度は登録されたのですから)。しかし、ある程度知られた他の犬図形を商標として使用している他社がいれば注意が必要です。結論はともかく、争いになれば本業に支障をきたすおそれがあります。
 今回は、異議申立てに収まらず、実際の使用に対しても差止め・損害賠償請求がなされた事案を観ていきます。問題となった商標は同じです。後述しますが、サラブランド㈱は、相手方の引用商標の出願日前にすでに犬図形を出願しているのですから、その際に、計画を立てて使用態様の犬図形を出願しなかったのは悔やまれます。上記その5で書いたように、ブランドのデザインと、被服等の商品のデザインとを分けて考え、前者については「識別力の一貫性」を管理し、後者については、商品の形状や模様などは異なっても、その世界観を醸し出すようデザインするのがよいように思います。今回の裁判例にあたって改めて思いました。

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東京地裁平成14年7月31日判決 平成13年(ワ)第13758号
サラブランド事件2 損害賠償等請求事件

原告 株式会社ネットワーク
被告 株式会社サラブランド

主文
1 被告は,商品又は商品の包装に別紙第3及び第4目録記載の標章を付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,又は輸入してはならない。
2 被告は,商品又は商品の包装に別紙第3及び第4目録記載の標章を付したものを廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,金2814万円及びこれに対する平成13年9月2日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。   (以下省略)

別紙第3及び第4目録記載の標章と原告商標
サラブランド対ネットワーク 地裁.jpg
 以下本ブログでは、原告商標1乃至3は、図形部分についてほぼ同じなので、「原告商標1」を中心に取り上げ、「原告商標(又は原告商標1)」と言い、被告標章1及び2は、図形部分についてはほぼ同じなので、「被告標章1」を中心に取り上げ、「被告標章(被告標章1」と言います。

当裁判所の判断(ブログ筆者加工あり。)

1.被告各標章と原告各商標との類否について
 「DOG・DEPT」の文字は、図形部分の下に極く小さく、細い文字で表示されていること等により、同各商標に接した者は専ら図形部分に注意がひかれるということができるので、原告商標2及び3の要部は図形部分であると解されるとしたうえ、被標章と原告商標について以下のように対比し、類似すると判断しました。

 すなわち、両者の犬の図形はいずれも尾をほぼ水平方向に延ばし、左向きで立った姿勢を保ち、黒塗りで描かれているという特徴が共通であり、このような基本的な特徴がこれに接した一般需要者に強く印象付けられるというべきであるから両者は外観(観念及び称呼も同様と考えられる。)において類似する。
 
 確かに、被告標章1の犬の図形は、①足先が太く、前足と後足をそれぞれ開き、交互に踏み出している、②頭部が左水平方向に向いている、③胴部が全体的にわたって太い、④尾が右水平方向よりやや上方に延びて、全体に太いという点があるのに対して,原告商標1の犬の図形は、①足先が細く、前足はそろえ、後足はやや開いている、②頭部が水平方向よりやや上方に向いている、③胴部の中央付近が大きく絞られている、④尾が右水平方向に延びて、先端が細くすぼまっている点があるので若干相違するが、
 被告標章1及び原告商標1もともに,被服等にワンポイントマークとして縫いつけられたり,刺繍されたりするなど,比較的小さく表示され、上記の細部における相違点はほとんど目立たないものと認められることに照らすならば、上記の相違点は,被告標章1が原告商標1に類似するとの前記判断に消長を来さないというべきあるとしました。
 
 また、被告が犬の種類の違いについて主張しましたが、原告商標の指定商品に係る一般的な需要者(原告商標の指定商品は,その中に「被服」を含むことから,その指定商品に係る一般的な需要者は,犬ないし動物に特段の関心を持たない者を含む広範な一般消費者であると解される。)において普通に払われる注意力を基準とすれば、犬の図形から、直ちにその犬の種類の相違を区別できると解することはできないとして採用されませんでした。

 また、被告は、被告標章1を「Sarah brand」の文字とともに使用しているので,原告各商標とは類似しない旨主張しましたが、被告標章1と原告商標1の基本的特徴が共通している点に照らして,被告標章において,被告の名称である「SARAH BRAND」等が付加的に表記されていたからといって,前記類似するとの判断に影響を与えないとされました。

裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 今井弘晃
裁判官 石村 智

まとめ
 他の争点がありましたが、本ブログでは、犬図形の類否について以上とりあげました。
 本裁判所の判断では、静的な態様、静止した態様、歩行した態様、といった状態については触れられていませんが、ワンポイントマークに使用するという使用態様に着目して、共通点が相違点を凌駕すると判断されてしまいました。

 なお、原告の商標権についてはいずれも指定商品は原告1及び2が第25類の被服等で、原告3が第18類でした。そして原告商標1の出願日は平成10(1998)年11月25日、原告商標2及び3の出願日は平成9(1997)年2月20日です。
 「動物図形を使ったマークのデザイン研究その5」で取り上げましたが、サラブランド㈱は、1996年すでに前向きの犬図形を出願し、拒絶なく登録されていますので、その際に、横向き図形を一緒に考えるか、前向き図形のみ使用すると意思決定をしていれば問題はなかったように思います。商標の識別力の一貫性は重要なので、使用時にある程度将来の使用態様の展開を予測して出願するのがよいなぁと改めて思いました。

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東京高裁平成15年3月13日判決 平成14年(ネ)第4552号  
サラブランド事件3 損害賠償等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成13年(ワ)第13758号)

控訴人       株式会社ネットワーク
被控訴人      株式会社サラブランド

主文
1 原判決中,控訴人敗訴の部分を,本判決主文第2項に反する限度で取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,金4894万2899円及び内金4222万2442円に対する平成13年9月2日から,内金672万0457円に対する平成13年11月28日から各支払済みまで年5分の割合による金員支払え。
3 控訴人のその余の控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じこれを3分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。

事案の概要(ブログ筆者加工あり。)
 控訴人㈱ネットワークは、被控訴人㈱サラブランドに対し、原審と同様の商標権に基づき、原審と同様の被告標章を使用して被服等を生産し販売する被控訴人の行為が,控訴人が有する商標権を侵害し,また,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当するとして,商標権及び不正競争防止法に基づいて,商標の使用行為の中止及び商品等の廃棄並びに損害賠償を請求しました。原判決は、差止及び商品等の廃棄の請求はすべて認容し、損が賠償請求は一部のみを認容しましたが、損害額請求中の原判決において棄却された部分の一部についてこれを不服として控訴しました。

当裁判所の判断
 当裁判所は,控訴人の損害賠償請求につき,原判決が認容した部分のほか原判決が棄却した部分中の一部にも理由があり、その余は理由がないと判断しました。

1.被控訴人 ㈱サラブランドの行為について
 被控訴人の侵害行為について、 「使用」の定義を定めた商標法2条3項を挙げた上、「被控訴人が取り扱う全商品を掲載した商品カタログの裏表紙に,「Sarah」と「brand」の文字の間に被告標章1を付し,これを被控訴人の中心的な商標(いわゆるハウスマーク)として用い,雑誌や新聞における,商品と被控訴人の直営店の宣伝広告にも被告標章1を同様に用いている」という行為は、「被控訴人が生産し販売するすべての商品について,その広告ないしは取引書類について被告標章1を付して頒布する行為に該当し,被控訴人が生産し販売するすべての商品に,被告標章1を使用する行為である」と判断しました。

 また、「被控訴人の取扱いに係るすべての商品に,「Sarah」と「brand」の文字の間に被告標章1又は2を付した標章を付したタグを用いており,また,同タグを付した商品を被控訴人の直営店において一般消費者に販売したり,その他の販売店に卸売りしたりしている。この被控訴人の行為は,被控訴人のすべての商品に被告標章1又は2を付する行為であり,また,被告標章1又は2を付した商品を譲渡する行為にも該当し,結局,被控訴人が生産し販売するすべての商品に,被告各標章を使用しているものということができる。」とも判断しました。

 被控訴人は「その直営店で販売する商品の包装用袋に「Sarah」と「brand」の文字の間に被告各標章を配した標章を付している。これは,被控訴人が経営する直営店で販売するすべての商品について,その包装に被告標章1又は2を使用する行為に該当する。また,被控訴人は,前記期間において,その直営店の雑誌広告及び新聞広告並びにそのショーウインドーや入口マットに,被告標章1を付している。この被控訴人の行為は,被控訴人が経営する直営店で販売するすべての商品について,商品の広告に被告標章1を付する行為に該当する。」とも判断しました。
 
 以上によれば被控訴人は「ワンポイントマークとして被告標章1又は2を付した商品を生産し,これを販売しただけでなく,被告標章1又は2をワンポイントマークとして商品に付していない場合でも,被控訴人が生産し販売するすべての被服等の商品について,被告標章1又は2を商標として使用してきたものと認められる。」と結論づけられました。

2.損害の額について
 「・・・被控訴人が,平成12年3月から平成13年11月28日までの間に、被告各標章をワンポイントマークとして付して販売した商品の売上げは原判決が認定したとおり8億0400万4801円であり(全体の売上額の約24.73%に当たる。)、
被告各標章を使用してはいるものの,これをワンポイントマークとして付してはいない商品の売上げは,24億4714万4950円である(全体の売上額の約75.27%(正確には75.270139%であり,後記の計算にはこの数字を用いている。)に当たる。)。」と判断した上以下のように算出しました。(下線・改行:ブログ筆者)

 「原告各標章の使用料相当額は,被告各標章をワンポイントマークとして付した商品については,売上額の3.5%」(争いがない)なのでこれを前提とし、
「被告各標章をワンポイントマークとして付していない商品については、被告各標章以外の,被控訴人が有する登録商標である犬の足跡の標章、犬の後ろ姿の標章等をワンポイントマークとして使用し,あるいは,これらの標章を組み合わせた商標を使用していることが多く」、
「原告各商標に類似する被告各標章の使用料相当額は、その他の登録商標の顧客吸引力も商品の販売に貢献していることを考慮すれば,被告各標章をワンポイントマークとして使用した場合に比べ、その額を減ずるのが相当である」としつつ、
「しかし、被告各標章が、被控訴人のハウスマークとして,その宣伝広告において中心的商標として使用されてきたものであることも考慮する必要がある」ため、「これらを総合すれば,その使用料相当額は,被控訴人の売上額の2%と認めるのが相当である」としました。 そこで、上記「24億4714万4950円」に2%を乗じた4894万2899円と認めるのが相当である。」としました。
 以上のほか、継続的不法行為により生じる損害賠償債務に関する遅延損害金の判断等がなされました。

3.無過失の抗弁について
 当裁判所は、「被控訴人のように,その使用する商標について商標登録を得ることができた場合においても,商標権については,その商標登録後に,登録異議申立てによりその登録が取り消されたり,無効審判請求により無効とされることがあることは,あらかじめ商標法が予定しているところであるから,商標登録を受けているとしても,上記の他人の商標との抵触のおそれについての調査検討義務が不要になるわけではないことは当然である。」等と判断し、認めませんでした。

4.中用権(商標法33条に基づく使用権)について
 当裁判所は、同法の規定は、「無効審判の請求の登録前の使用により周知となった商標について,無効とされた場合に中用権を認めた規」ものであるとし、「被控訴人は,登録異議の申し立てによる取消決定があった場合にも,この規定の類推適用がある旨主張する」が、「無効審判の請求については,一部の無効理由について商標権の設定登録の日から5年を経過した後に請求することができない,との制限があるとはいえ,そのほかは,特に期間的制限がなく,請求できるものであるのに対し(商標法46条,47条),登録異議申立ては,商標掲載公報発行の日から2月以内という短期間に限り,申し立てることができるものであるから(同43条の2),無効審判請求の場合において長年にわたる努力により信用を蓄積してきた企業について中用権を認めることを正当化するような事情は,登録異議申立ての制度において認めることはできない。」と判断し、認めませんでした。
 なお、異議申立てに仮に類推適用されるとした場合でも周知性の要件を満たさなかったようです。

5.権利の濫用について
 被控訴人は、原告各商標権は無効理由があることが明らかであるか、,控訴人の本訴請求は、権利の濫用であると主張し、引用商標1乃至4を挙げましたが、控訴人の登録商標は、これらとはいずれも非類似とされ、権利濫用の主張は採用されませんでした。
引用1乃至4.png

 ちなみに、原告各商標とその先願である引用商標1(登録第3371000号)との外観類似については、「両者は,いずれも左向きで立った姿勢を保ち,黒塗りで描かれている犬の図形である点で共通する。しかし,原告各商標の犬は,いずれも胴体に対して頭がかなり小さく,胴体も脚も細く全体的にスマートな大型犬という印象を与えるのが特徴であるのに対し,引用商標1は,胴体に対して頭が大きく,首も胴体も足も太いどっしりとした大型犬という印象を与えるのが特徴的であり,少なくとも,両者は外観上類似することが明らかであるとまではいうことができない」と判断されました。
 
 原告各商標とその先願である引用商標2(登録第4259240号)及び引用商標4(登録第4469235号の商標との外観類似については、「両者は,いずれも左向きで立った姿勢を保ち,黒塗りで描かれている犬の図形である点で共通する。しかし,原告各商標の犬は,いずれも胴体に対して頭がかなり小さく,胴体も脚も細く全体的にスマートな大型犬という印象を与えるのが特徴であるのに対し,引用商標2及び引用商標4は,原告各商標の犬と比べ,胴体に対し頭も大きく,首も太く,原告各商標の犬のようなスマートな大型犬という印象を与えるものではなく,少なくとも,両者は外観上類似することが明らかであるとまではいうことができない。」と判断しました。(引用商標3(登録第4325264号):現在権利消滅につき省略)

裁判長裁判官  山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官  阿部正幸


 ま と め

 以上、控訴審では、類似の判断について覆ることはなく、被控訴人の「使用」の認定及びこれをベースにした損害賠償額の算定が、注目されるものだったかと思います。
 結合商標の類否判断については、ブログ筆者の感想では、原告・控訴人の商標2、3については、文字から分離され、図形部分を要部と認定した点はもっともなものかと思われますが、被告・被控訴人の使用態様については、「SARAHBRAND」等の文字との一体化させた商標については、類似しないと判断させる余地がなかったものか、と少し気の毒に思います。

 結合商標については、つつみのおひなっこや事件における判断手法が現在は浸透しているようにも思います。
 すなわち「複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)。」

 また、犬図形・その他の動物図形間の類否判断についても、ばらつきがあるように思います。ブログ筆者としては、被告・被控訴人が「権利の濫用」を主張した理由も解らないではないです。調査でも明確な答えが出しにくい状況です。
 そうすると、最初から、自社の商品分野に犬図形・その他の動物図形(特にシルエット図形)がある場合は採用しないか、又は、少なくとも登録商標の異議申立て期間が過ぎてから使用を開始するか慎重に進める必要があるように思います。一番いいのは、一部をデフォルメ化したり、特徴的部分を付加する等して動物そのものシルエットとは差異を設けることだと思います。
 
 いずれにしても、被告・被控訴人が、原告・控訴人の商標権1乃至3の出願日より早く、前向きの犬図形を採用していたにもかかわらず、それをベースに展開するか、横向き図形を早いうちに考え、使用し始めるか、より他の犬図形とは異なる特徴的な犬図形を採用して使用するか展開できなかったか残念でなりません。横向きの犬図形の流行りにのって、前向き犬図形をさしおいて横向き犬図形に浮気してしまったということでしょうか・・・。流行りに乗るのも重要なのかもしれませんが、独自性を出すべきです。

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