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先使用による商標の使用をする権利の研究2

白鷹事件 山形地裁昭和32年10月10日判決 
DCC事件 広島地裁福山支部昭和57年9月30日判決

 国内全域にわたる商標権取得を阻む力を未登録商標に認める商標法4条1項10号と、未登録商標使用者に先使用権を認める同法32条には、いずれも「需要者の間に広く認識されている」という文言が使われています。
 いわゆる「周知性」の要件のことですが、現在では、「先使用権は、使用者の既得利益を保護するための権利である」ため、「他人の登録商標を妨げる周知商標(4条1項10号)について要求される周知性ほど高度である必要はない」(渋谷507)とする説が通説になっていると考えます。
 
 そこで、今回は、先使用権が認められる周知性の程度について、考えてみたいと思います。
 検討にあたって、渋谷達紀著「知的財産法講義Ⅲ第2版」(有斐閣)(以下引用部分は「渋谷+頁数」として記載。)と、田村善之著「商標法概説第2版」(弘文堂)(以下引用部分は「田村+頁数)を用います。
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 田村先生は、周知性の要件を、『地域的範囲』『需要者層』『浸透度』に分けて説明されており、この分け方が解りやすいので、これに倣って以下検討します。今回は、地域的範囲についてです。

地域的範囲について

 地域的範囲について、田村先生は「狭小な地域における知名度で足りると」とする。
 例えば、「清酒について交通不便のため山形県楯丘地方(現在村山市)に主として販売されていた地酒であって、同地方の同業者7軒と取引者、需要者間に認識されているという事実で、先使用の抗弁を認めた判決がある(刑事事件で、交通不便に起因して一般に清酒の販売が県内に限られていたという事情を参酌しつつ、山形地判昭和32・10・10判時133号26頁〔白鷹〕。)」と紹介する(田村81)。

 また、上島珈琲が登録商標「DCC」に係る商標権に基づいて、同一の商標を使用するダイワコーヒーに対し差止請求をした事件(広島地裁福山支部昭和57年9月30日判決 判タ499号211頁)について、同裁判所は、商標法4条1項10号と32条の周知性の要件を同様の基準でもって臨むと説示しつつ、
「上島珈琲がUCCマークを使用していたところダイワコーヒーがDCCマークを使用し始めたことに本件紛争は端を発していること、
その後、上島は登録商標を使用したことはなく、将来についても使用の予定がないこと、
他方で、ダイワコーヒーにとっては23年に渡り使用し広島県内において相当の知名度を有するに至っているDCCマークの使用を禁止されると営業活動に多大の支障を来すことになる、という事情を斟酌して、
上島の請求は権利の濫用となる判示し、結果的に、ダイワの継続使用を認めている。(田村81)」。(改行ブログ筆者)

 田村先生は、以上のことから、広島県内での周知性で先使用権は認められると解釈されていると思う。

 渋谷先生も、DCC事件について、「広島県全域、山口県東部、岡山県西部および島根県の一部において営業をしていたが、広島県下の取引先占有率が30%、宣伝活動は概ね広島県下に限られていたという粗挽きコーヒー加工販売業者の商標「DCC」につき、周知性を否定して、先使用権の成立を認めなかった事例」と紹介し、
「商標権者による権利の濫用を肯定することにより、結論的には「DCC」の使用継続を認めている」点も指摘しつつ、「要件が厳しすぎると思われる。(渋谷508)」と述べておられる。

<まとめ(私見)>
 思うに、上記清酒「白鷹」の例では交通不便等の事情があり、粗挽きコーヒー「DCC」の例では、商標権者がDCCを使用していなかった等の事情があったことを考えると、他の事情と相まって地域的範囲も判断されるものと考える。
 特に、次回ブログで触れようと思うが、『需要者層』や『浸透度(「問題の地理的範囲、需要者層の中で、どの程度の割合いの人間に知られていれば、32条1項の要件を満足すると解すべきか(田村82))』とともに、総合的に判断して周知性を判断すべきと考える。

先使用権が認めらる地理的範囲
 なお、先使用権が認められる範囲は、例えば広島県下での周知性を認められた場合は、その範囲でしか認められないと考える。
 
 田村先生も「先使用者(ex.ダイワコーヒー)が、周知地域(ex.広島県下)以外の地域で、表示を使用する場合には、その地域では、表示が商標登録出願の前から「需要者の間に広く認識されている」ことにならないから、32条1項の要件を満たさないと解される。その結果、先使用者は表示が広く認識されている地域でのみ、表示の使用を継続することができるにすぎない(傍論ながら反対、大阪地判平成9・12・9地裁集29巻4号1224頁〔古潭〕(田村83)」とする。

宣伝広告による商標の使用
 但し「国内における使用である限り、商品役務が現に提供されていたことは必要ではなく、商品の発売前の宣伝広告(2条3項8号)に商標が用いられていたということでもよい。この場合は、宣伝広告についてだけ先使用権が成立するわけではなく、これに必然的に後続する行為である商標品の生産や販売について先使用権が成立する(渋谷508)」とされる。
 従って、販売数量や売上等に加えて、当然ながら、宣伝広告がどの範囲まで行われていたのかを立証することも重要になろう。雑誌や新聞、テレビやラジオ等の媒体については、全国版であると、地域的範囲の広がりに貢献すると考えられる。
 但しWEB上出の掲載は必ずしも周知性に貢献しない。WEB上での使用については別途検討する。

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