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先使用による商標の使用をする権利の研究1

ケンちゃん餃子 先使用権確認請求事件 
大阪地裁平成21年3月26日判決 平成19年(ワ)第3083号  

 いわゆる「先使用権」は、特許庁から権利として認められるものではありませんが、一定の要件を満たした場合は、他者の商標権の効力を食い止め、自己の商標を継続使用できます。
 しかし、要件が厳しく、また、自社が扱うものが商品かサービスか、自社の属する業界等々の事実によって、先使用権が認められるために必要な各要件の幅に違いが出てくるので、種々裁判例や学説を研究してこれらを参考にする必要があります。

 そこで、今回は、一般消費者を需要者とし、地元スーパー等で購入できる餃子(商品)に関する商標が問題となった事例を取り上げます。Googleを検索すると、「ケンちゃん餃子」の商品を複数観ることができますが、中には「ケンちゃん餃子ネットショップ」がありますね。
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1. 当事者
原告 ケンちゃん餃子株式会社
被告 P1
(注意:なお、先使用権を主張する側は、通常第一審では「被告」となるのですが、確認請求事件なので、「原告」となっています。)

2. 前提事実
(1)原告は、食品製造販売業者(株式会社)で、主に餃子を製造販売している。
(2)被告は、指定商品「第30類 ぎょうざ」について、登録第4222852号「image001.png」(以下「本件商標」という)に係る商標権(以下「本件商標権」という)を有している。本件商標の出願日は平成8年12月6日、登録日は平成10年12月18日であり、その後更新されている。

(3)原告は、餃子(以下原告の製造販売する餃子を「原告商品」という)を製造し,以下の各標章(以下「原告標章1」ないし「原告標章5」といい,併せて「原告各標章」という)を使用して販売している。

原告標章1「image002.png」、原告標章2「2.png」、原告標章3「3.png」、原告標章4「4.png」、原告標章5「5.png」 
(本件商標及び原告標章は、最高裁HP掲載の別紙目録より引用。)

3. 原告の請求
 原告は、本件商標権に類似する原告各標章を使用しており、本件商標登録出願の際、「東京都,埼玉県,神奈川県,千葉県,茨城県,栃木県,群馬県,山梨県,福島県,長野県,静岡県,新潟県」(以下「本件地域」という。)において、原告の業務に係る商品を表示するものとして需用者の間に広く認識されていたとして、本件商標につき、同地域において、先使用による商標の使用をする権利を有することの確認を求めた。

4. 争点
 原告の原告各標章の使用が、商標法32条1項の先使用の要件を備えているかという点と、その要件を備えた地域の範囲である。

5. 裁判所の判断
(1)主文
 『原告が,別紙商標目録記載の商標(被告の本件商標)に関し,別紙標章目録1ないし5(原告標章1乃至5)記載の態様及び別紙地域目録記載の地域(本件地域)において,「ぎょうざ」について,先使用による商標の使用をする権利を有することを確認する。』( )内ブログ筆者。

(2)当裁判所が認定した事実(原告各標章の使用状況)
①原告商品の製造販売の開始
 原告の創業者であるP2(現在の原告代表者の夫)は,昭和43年10月ころ,中華料理店を開店し,昭和44年ころより,地元のスーパーマーケットに惣菜店を出店し,餃子を製造販売していた。この餃子が好評であったため,築地市場の卸売店に販売するようになった。そして,昭和45年11月,有限会社ケンちゃんを設立し,昭和50年11月,株式会社に組織変更するとともに,商号を「ケンちゃん餃子株式会社」に変更した。 原告は,昭和45年11月の設立時から,「ケンちゃん餃子」の商品名で餃子を製造販売し,昭和50年11月には,上記商品名を社名とした。

②販売実績
 原告は,昭和45年11月の設立後,昭和47年には,新たな工場(東京第1工場)を開設,稼働させていたが,製造が追いつかなくなり,昭和53年11月,ケンちゃん餃子新潟株式会社を設立し、新潟工場を開設した。さらに,平成5年には,東京第2工場を開設した。原告の売上は,昭和49年11月決算期には1億2000万円余であったが、年々売上をのばし,その後,平成5年をピークにその後,増減を繰り返しながらも,ほぼ7億円以上の売上を計上している。

 新潟工場では,当初,東京方面に販売していたが,新潟県内の小売業者に対しても販売するようになり,さらには,その近隣の県の小売業者に対しても販売するようになった。その売上は,第9期(昭和61年11月1日~昭和62年10月31日)で9761万9410円,第10期(昭和62年11月1日~昭和63年10月31日)で1億1343万0239円,第11期(昭和63年11月1日~平成元年10月31日)で1億2652万8960円であった。

 また,平成元年2月には,新潟工場と合わせて,年間7000万個の餃子を作り,国内200社の中で5番目のシェアを有していた旨の記事が新聞に掲載された。

 なお,原告は,設立当初から,一貫して,餃子の製造販売に絞って事業を展開しており、原告が,餃子以外の商品を扱っていることを窺わせる証拠はない。したがって,上記売上はいずれも原告商品を販売したことによるものであることが認められる。

③原告各標章の使用
 原告の前身(昭和44年ころから昭和45年11月まで)に引き続き、原告(昭和45年11月以降)は,設立当初から,原告商品に「ケンちゃん餃子」の表示を使用するとともに,原告標章1と原告標章3を使用してきた。また,原告は,設立のころから原告標章2と、原告標章4とを昭和61年ころから、原告標章5を,それぞれ原告商品に使用してきた。

④宣伝活動
 原告は,昭和51年ころ,ラジオCMを放送し,平成2年から平成5年の間にも,ラジオCMを放送した。上記CM放送の受信地域は,関東地方1都6県(神奈川県,埼玉県,千葉県,栃木県,茨城県)と山梨県を完全にカバーし,さらに,福島県,長野県,静岡県,新潟県の一部を含むものである。また,平成12年,原告のホームページを開設した。

(2)先使用による商標の使用をする権利の発生の有無
①前提
 原告は告各標章を使用した原告商品と、本件商標の指定商品と同一であるところ、原告各標章は,いずれも本件商標に類似する。

②本件地域における需用者の認識
 原告各標章を付した原告商品の売上は、少なくとも本件地域を中心に7億円前後というものであり、新潟工場による製造、販売も合わせるとこれを相当程度上回る。

 また、本件地域においてラジオCMを放送したことも考慮すると、遅くとも本件商標の出願(平成8年12月6日)の際には、原告各標章は、原告商品の商品表示として、本件地域を中心に需用者の間に広く認識されるに至ったと認めることができる。

 被告は、原告商品のうち業務用商品と市販用商品との販売実績が不明であると主張する。たしかにその内訳は必ずしも明らかではないが、上記売上高によると相当長期にわたり店舗等において消費者の目に触れたことが窺え、ラジオによるCM放送などを通じ、本件地域内では業者間だけでなく一般消費者間でも原告各標章が原告商品の商品表示として広く認識されるに至ったと認定して差し支えないと考える。

 また、被告は、仮に原告各標章に周知性が認められたとしても、その場所的範囲は全国ではなく地域を限定すべきであると主張し、特に新潟県における周知性を争っている。しかし新潟工場で製造したもののうち新潟県内や近隣の県の小売業者に対しても販売していることが認められ、上記認定を左右するに足りる事情は窺えない。

③結論
 以上によると、少なくとも本件地域においては、本件商標の出願の際、原告各標章が、需用者の間で周知であったということができ、原告は、本件商標につき、本件地域において、先使用による商標の使用をする権利を取得したということができる。

 なお、商標法32条1項により商標の使用権が認められる以上、その使用権の内容は、先使用時における使用態様に限定されるわけではないが、原告は、本件商標の使用権の確認を求めるにあたり、原告各標章の態様の使用に限定した使用権の確認を求めておりその限度で認容することとする。

(裁判長裁判官山田陽三、裁判官島村雅之、裁判官北岡裕章)

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以上は、最高裁HPより引用、一部修正を加えています。本事案にご興味がある方は原文にもあたってください。

事件番号 平成19(ワ)3083
事件名  先使用権確認
裁判年月日 平成21年3月26日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別  商標権
訴訟類型  民事訴訟

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