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国内外の地理的名称からなる商標出願の取扱い

 のっけから問題で恐縮ですが、

 指定商品をコーヒー、コーヒー飲料等として、「GEORGIA」を商標として出願した場合や、

 指定役務(サービス)を損害保険契約の締結等として、「チューリッヒ」を商標として出願した場合は、登録されるでしょうか? 


 すなわち「"GEORGIA(ジョージア)"は、アメリカ合衆国の州」、"チューリッヒ"は、スイスの州や都市」と言えますが、このような国内外の地理的名称からなる商標が登録されるか、という問題です。


 商標法では「その商品の産地、販売地・・・、その役務の提供の場所・・・を普通に用いられる方法で表示する」ような商標(同法3条1項3号)や、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」(同項6号)は、原則として登録しないこととなっています。

 しかし、上記の規定に該当するかの判断は、実際は一筋縄ではいきません。そこで、特許庁では、商標審査基準を公表しています。同基準では、以下のように説明されています。 


まず、3号について審査基準では、

『3.(1) 国内外の地理的名称を表示する商標については、その地理的名称の表示する土地において、必ずしも現実に指定商品が生産され若しくは販売されていること又は指定役務が提供されていることを要せず、需要者又は取引者によって、その地理的名称の表示する土地において、指定商品が生産され若しくは販売され又は指定役務が提供されているであろうと一般に認識される場合には、商品の産地若しくは販売地又は役務の提供の場所を表すものとして、本号の規定に該当するものとする。

 なお、国家名(国家名の略称、現存する国の旧国家名を含む。)、著名な地理的名称(行政区画名、旧国名及び外国の地理的名称を含む。)、繁華な商店街(外国の著名な繁華街を含む。)及び地図を表示する商標は、指定商品の産地若しくは販売地又は指定役務の提供の場所を表すものと認識される蓋然性が高いことから、原則として、本号の規定に該当するものとする。

 ()「国内外の地理的名称」には、国家、首都、州、県、州都、省、省都、郡、県庁所在地(県都)、旧国、旧地域、地方、市、特別区、行政区画、繁華街、観光地(その所在地又は周辺地域を含む。)、湖沼、山岳、河川、公園等を表す名称や地図が含まれるものとする(以下同じ。)。

 

(2) 国内外の地理的名称を表示する商標は、本号の規定に該当しない場合であっても、第3条第1項第6号の規定に該当するものがあることに十分留意する。』

と説明されています。

 

6号について審査基準では、

『5.事業者の設立地・事業所の所在地、指定商品の仕向け地・一時保管地若しくは指定役務の提供に際する立ち寄り地(港・空港等)等(以下「事業者の設立地等」という。)の国内外の地理的名称を表示する商標又は事業者の設立地等として一般に認識される国内外の地理的名称を表示する商標は、第3条第1項第3号の規定に該当しない場合であっても、事業者の設立地等として多くの場合にすでに一般的に使用されあるいは将来必ず一般的に使用されるものであることを踏まえ、原則として、本号の規定に該当するものとする。』と説明されています。


 以上のような審査基準は、平成24年11月1日以降の審査に適用されていますが、従来から裁判や審判でも争いがあり、上記審査基準に沿うような判断が出される傾向にあったようです。

著名な判例として、ジョージア事件(昭和60年(行ツ)68号 昭和61年1月23日最高裁判決 判時1186号)があります。『必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産され又は販売されていることを要せず、需要者又は取引者によつて、当該指定商品が当該商標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識されることをもつて足りる』とする判示内容です。


従って冒頭の1番目の問いに対しては、原則として拒絶されるという答えになります。

なお、実際は「GEORGIA」「ジョージア」は、3条2項(使用による識別力の獲得を認める規定)の適用等で登録されています。

 

 冒頭の2番目の問いの商標「チューリッヒ」に指定役務 第36類「損害保険契約の締結」を指定した場合については、商標審査便覧に例があります。

すなわち、『「チューリッヒ」を表示した商標が指定役務「損害保険契約の締結」について出願された場合、当該役務は日本国内で提供することが前提であることからすると、当該商標に接する我が国の取引者・需要者は、当該商標「チューリッヒ」を役務の提供の場所と認識し得ないので、第3条第1項第3号を適用することは困難となる。しかしながら、「チューリッヒ」を設立地、事業所の所在地とする事業者が日本国内で事業を行う際には、その事業者の設立地・事業所の所在地である「チューリッヒ」が広告・取引書類等に使用され得ることからすると、当該「チューリッヒ」は、自他役務の識別標識としての機能を果たすものとはいえない。』としています。

実際は、「チューリッヒ生命」「チューリッヒ保険」は登録されていますが、「チューリッヒ」については拒絶理由通知が出されているようです(20141014日特許電子図書館調べ)。しかし、3条2項(使用による識別力の獲得を認める規定)の適用で登録される可能性もありますね。

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