取組み・活動

デザインのちから!

椅子等の実用品のデザインの著作物性の研究4

知財高裁平成27年4月14日判決 平成26年(ネ)第10063号 

著作権侵害行為差止等請求控訴事件


 研究1乃至3で、椅子のデザインに著作物性が認められた最近の裁判例を観ていきました。結論としては控訴人は負けてしまいましたが、著作物性が認められた点で画期的な判決だと思います。ブログ筆者としては、今後、実用品又は産業上の利用を目的とする表現物であっても、一定の要件の下、著作権を認めて保護される方向に行くのではないかと期待します。


 というのも、ブログ筆者私見では、製品デザインの保護として第一義的に存在するともいえる意匠法が、改正により、24条2項として、「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする」との規定が導入され、現行意匠法は、意匠(デザイン)は需要を喚起するために施され、意匠法は物品の混同を防ぐために意匠(デザイン)を保護するとの立場に立つことが明確になったと考える訳ですが、「需要を喚起させること」が必ずしも、国民の生活を豊かにするとは思えず、そのような立場に立つ意匠法とは立場を異にする制度が、デザインを介して国民の生活を豊かにするという流れにとって必要になると思われるからです。

 産業の発達を目的とする意匠法なので、需要を喚起することは重要な使命となるのかもしれません。しかし需要の喚起が、短期的・目先の利益を追求するものである場合は、産業の発達につながるか疑問に思うからです。

 

 つまり、需要を喚起するために、「新しいデザイン」の名の下に、実は何も機能が変わらず、むしろ余分な機能をくっつけて、消費を加速させるシステムが、持続可能な産業の発展を支えるとは思えません。もちろん優れたデザインは需要を喚起すると考えますが、それは結果論で、需要を喚起するだけのためにデザインがある、とは思えないのです。とはいえ、今の意匠法は、兎に角早く新規で創作非容易な意匠(デザイン)を出させる使命を負わされているように思えます。そこで著作権法による保護が併存して存在することで、より豊かなデザインを引き出すことが可能になるようにも思います。

 

 その点で、研究1乃至3で取り上げた裁判例は、興味深い内容でした。意匠法と著作権法の保護が重畳的に適用されることになったとしても、意匠権存続期間満了後もなお、不正競争防止法ではなく、著作権で保護されるデザインがあると思うのです。

 

 著作権法10条1項では、著作物を例示しており、その中には美術の著作物も含まれ(同法10条1項)、「美術の著作物」には「美術工芸品」も含まれると規定さています(同法2条2項)。但し、これは例示にすぎず、同裁判例では、以下のように判断基準を示しました。


 「実用に供され、あるいは産業上の利用を目的とする表現物(以下、この表現物を「応用美術」という。)が、美術の著作物」に該当し得るか」について、「著作権法が、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的と」していること(同法1条)に鑑みると、表現物につき、実用に供されること又は産業の利用を目的とすることをもって、直ちに著作物性を一律に否定することは、相当ではない。」


 「ある表現物が「著作物」として著作権法上の保護を受けるためには、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを要し(同法2条1項1号)、「創作的に表現したもの」といえるためには、当該表現が、厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの、作成者の何らかの個性が破棄されたものでなければならない。表現がありふれたものである場合、当該表現は、作成者の個性が発揮されたものとはいえず、「創作的」な表現ということはできない。応用美術は、装身具等実用品自体であるもの、家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの、染色図案等執拗品の模様として利用されることを目的とするものなど様々であり、「表現態様も多様であるから、応用美術に一律に適用すべきものとして、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に、作者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである」。

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東京地裁平成26年4月17日判決 平成25年(ワ)第8040号 

著作権侵害行為差止等請求事件(原審)


 今回取り上げた知財高裁裁判例の原審はどのように判断したのでしょうか? ここで確認しておきます。


「当裁判所の判断

1 争点(1)(著作権又はその独占的利用権の侵害の有無)について

原告製品は工業的に大量に生産され,幼児用の椅子として実用に供されるものであるから」「そのデザインはいわゆる応用美術の範囲に属するものである。そうすると,原告製品のデザインが思想又は感情を創作的に表現した著作物(著作権法2条1項1号)に当たるといえるためには,著作権法による保護と意匠法による保護との適切な調和を図る見地から,実用的な機能を離れて見た場合に,それが美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性を備えていることを要すると解するのが相当である。」


本件についてこれをみると,原告製品は」「幼児の成長に合わせて,部材G(座面)及び部材F(足置き台)の固定位置を,左右一対の部材Aの内側に床面と平行に形成された溝で調整することができるように設計された椅子であって,その形態を特徴付ける部材A及び部材Bの形状等の構成」も,「このような実用的な機能を離れて見た場合に,美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性を備えているとは認め難い。したがって,そのデザインは著作権法の保護を受ける著作物に当たらないと解される。

また,応用美術に関し,ベルヌ条約2条7項,7条4項は,著作物としての保護の条件等を同盟国の法令の定めに委ねているから,著作権法の解釈上,上記の解釈以上の保護が同条約により与えられるものではない。よって,原告らの著作権又はその独占的利用権の侵害に基づく請求は理由がない。」



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